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企業法務と「自由研究」

株式会社カプコン 総務・法務統括 法務部 部長(現:株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長) 伊達 裕成

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戦う法務部長 第3回

 企業法務と言えば地味な仕事というイメージが強いだろう。トラブル案件の処理など面倒な仕事との印象も多いかもしれない。しかしながら、伊達氏は、この数年、法務部門とは全く関係のない部門のスタッフから、直接、法務部で働いてみたいと言われることもあり、法務部門に興味を抱いてくれているスタッフが増えてきているという。そもそも20数年前は法務部門を設けている会社も少なく、認知すらされていなかったことからすると驚きを隠せないとのことである。
 一方、昨今、法科大学院が縮小される中、大学の法学部を目指す学生が激減していることに対して、伊達氏は大きな危機感を抱いている。このような環境の中、なぜカプコンでは法務部に関心を抱く社員が増えたのか、どのようにそれまでの法務部を改革したのか。その背景と方法を聞いた。 (取材日:2014年8月19日)



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答えを教えるのではなく
スタッフに考えさせる

――スタッフの育成についてはどのように行っているのでしょうか?

伊達 企業法務の仕事は、ただ、上司の言われるがままにやっているだけでは、何の面白味みも遣り甲斐もありません。報告書を提出するだけの仕事であればなおさらでしょう。企業法務の仕事は、発生した問題に対して、さまざまな可能性を考え、解決方法を見出し、その青写真を自分なりに描いてみて、それを実行してみる。それが企業法務の仕事の醍醐味なのです。もちろん、実際に実行する前には、その方針について事前に会社の承認は必要になりますが。

 スタッフを育成するには、スタッフ自身に、企業法務の仕事の醍醐味を知って欲しい。これに尽きると思います。従って、徹底してスタッフ自身に自分で問題を考えさせるようにしています。
 ただなかなかそうはいっても、自ら考え、動けない人もいます。そこで私は、個々人の成長よりチームとしての成長を優先することにしました。一つの問題に対して、まずチーム内で検討させます。大事なのは、そのチーム内でのミーティングには私は参加しないということです。私が参加してしまえば、結局は、私の意見に流されてしまうだけですので、一向に考える力は磨かれません。そのミーティングの中では先輩、後輩の関係は関係なく、忌憚のない自由闊達な意見が言える環境にすることがとても大切なのです。
 例えば契約書のひな形づくり一つにしても、私がこと細かに指示したり教えたりするのではなく、まずは、チーム内で考え、作ってもらいます。それを最終的に私がチェックし、アドバイスするという順番にしています。私が最初にチェックした契約書は、真っ赤になる位、かなり多くの修正を入れましたので、当初は、一つの契約書が完成するまでには何往復もし、かなりの時間を要しました。
 これを繰り返すことで、チームとして考える力が自然と身に付いていきます。着眼点はどこにあるのか、自然と身に付いてくるようになります。

 また、議論される点はある程度は限られてくるのですが、それに対する回答をチーム内で共有する必要もあります。他部門からの質問に対して、スタッフごとに回答のばらつきがあるようでは、法務部に対する他部門からの信頼にも影響を与えます。その結果、他部門は法務部からの回答によって混乱する羽目にもなるからです。他部門からの質問には、その質問が抱える問題点に対するしっかりとした理解を持った上でなければ回答してはいけないのです。
 この取組みは、スタッフ個人とチームの能力アップ、そして他部門からの信頼獲得の両面を同時並行的に磨けるものではないかと考えています。
 また、私も、チーム内で議論されている内容を把握できることによって、そのチームが、何が得意で、また、何が不得意なのかが見えてきます。私にとっては、チームにおける特に不得意な点について、しっかりと指導していけばよいことになります。

――考えさせるようにするとは、具体的にどんなことをしているのでしょうか?

伊達 毎月一度、主要な判例を学ぶ研究会を開催させてます。また、期末になるとチーム毎の研究発表を法務部員全員の前で、発表してもらいます。
 どちらも、スタッフが主体的に動き、自分たちで考えてやってもらっています。 スタッフの育成というと、上司が主体でのレクチャー等が多いかもしれません。私も以前はそうでした。
 しかしながら、それでは、上司の興味ある内容の一方的な押し付けになってしまいがちです。スタッフのモチベーションは下がってしまいます。判例研究も研究発表についても、スタッフ自らが興味ある内容について取り組みますので、それは、自分の知識を深めることにもなり、また、日常の業務にも多いに役立つことに繋がります。

――判例研究、自由研究の発表とはどんなものですか?

伊達 判例研究については、法務担当者であれば、誰でもが知っておくべきである判例を題材にしてやってもらっています。
 自由研究のテーマについてもすべて自由です。スタッフが興味のある分野を選んで、図書館なりを利用して、期末の発表会に向けて纏め上げてもらいます。
 チームによってテーマは違いますが、ちなみに、前期のテーマは以下の通りです。

 一般法務部門(2チーム):
  「組合・組合契約について」
  「独占禁止法と知的財産法-「独占」の意義と両法の適用関係について」

 商標著作権部門:
  「コンテンツ産業における商品改変に伴う、商標権侵害の成立要件」

 特許部門:
  「職務発明について」

 現在、発表はパワーポイントでスライドを作って発表してもらっていますが、ゆくゆくは文章化し、論文で提出してもらうようにしたいと思っています。そのテーマを本当に理解していないと文章化はできません。文章にすることで論理的な思考のトレーニングにもなります。企業法務は言葉で勝負する部門ですので、とても大切なトレーニングになると考えております。
 この活動によって纏め上げられたものは、5年先、10年先、会社の貴重な共有財産にきっとなるはずです。


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企業法務にも
業務プロセスの改善を

――でも研究会や期末に課題を提出するとなると、業務が増えて、嫌がるスタッフもいるのではないのでしょうか?

伊達 それはないと考えております。なぜなら、ここ数年、徹底した業務効率化を推進しているからです。業務上の無駄を極力なくすような努力を、法務部門全員で行っています。
 1つ1つの作業工程を見直し、いかに短時間で効率よく仕事を終わらせるのか、いわゆる改善運動は、メーカーでは当たり前にやっていることだと思います。ところが事務方の部署でこうした取組みをしているところは意外に少ないんです。
 そこで赴任当初は、まず企業法務の知識やスキル云々の前に、業務の無駄の排除を徹底して行いました。

――製造部門でもないのに、こうした改善は必要なのでしょうか?

伊達 赴任当初、問題だと思ったのは、契約書や法律文書などの書類管理が杜撰で、紛失してしまうこともあったことです。こんな状況でまともな仕事ができるわけがありません。そこで机の整理整頓、資料の保管場所の徹底などを行いました。どこに何があるかがすぐわかり、仕事のフローがきちんと社内で共有化できれば、書類探しに手間取ることもなく、じっくりと解決策等を考える時間が取れるようになるのです。
 私どもの法務部門は20人のスタッフがおりますが、各スタッフが同じ資料を保有するだけでも、コピーも無駄ですし、各スタッフの机の中のスペースも無駄になります。全員で資料を共有できるソフトウェアを購入し、サーバー上で管理・運営もしています。これによって、スタッフが同時に同じ資料を見ることも可能になります。
 日常的な業務においても、整理整頓、置き場所のルールなどを設定することで、書類探しに時間を取られずに済むようになります。
 また誰か社員が休んだとしても、どこの資料はどこにあるかを部署全体で把握している状態になっているので、どんな場面でもスムーズに仕事ができるようになりました。
 もし書類を探したりするのに1日1時間使っているとしたら、1ヵ月で20時間、1年で240時間の無駄をしている計算になります。これを残業代がつく人数分掛ければ、結構な残業代金になります。管理コストという面からしても、このような取組みはとても大切だと考えております。

 当たり前のことを当たり前にする。これがまず自分の頭で考えられるようになる大前提です。


企業法務は問題解決を考える
クリエイティブな仕事

――一度、整理整頓させても、その状態が長く続かないという会社も多いと思うのですが、いかがでしょうか。

伊達 確かに、継続することは非常に難しいと思います。そのため、なんとなく整理整頓しなくなってしまわないように、法務部内の各チームから1,2名を選抜して、整理整頓委員会を設けております。当該委員会のメンバー(5,6名)が、抜き打ちで、法務部のスタッフ全員の机の上、周り等を写真撮影し、一応、誰の机か分からないような状態にした上で、メンバー内で、整理整頓状況の判定・評価するといったことをしています。
 評価された内容を、私が最終的に確認した上で、各チームの長から改善する必要がある人に対して、改善命令を出すようにしております。こうした委員会も、私は直接タッチせず、スタッフ主体的に行っております。

――業務の改善で浮いた時間を勉強会や研究会にあてているわけですね?

伊達 その通りです。スタッフ全員の努力のおかげで、無駄な残業時間は増えることなく、ほとんどのスタッフが通常は定時で帰宅できております。
 一日で、自分だけの時間はせいぜい3、4時間程度ではないでしょうか? もちろん、それ以下、もしくは全くない人もいることでしょう。しかしながら、私としては、一年のうち、当然仕事においては、繁忙期はあると思いますが、それ以外においては、自分の時間をしっかりと確保してほしいと思っています。その時間を使って、友人との交流を持つのもよいですし、カルチャースクールへ行くのもよいでしょう。自分の時間を通して、精神的、人間的な豊かさを育んでほしいと考えます。それが、仕事にも間接的によい意味で活かされることも十分に考えられ得るからです。

 さらに個々人のレベルをアップしてもらうために、社外セミナーなどには率先して参加するように指導しています。企業法務といっても、業種によっての違いはあります。通常は、自社で扱っている業務が企業法務の業務のすべてと思ってしまいがちになるため、他社との違いを認識してもらう必要があるのです。各スタッフが、他社の法務担当者と話す機会を持って、自分に何が足らないのか等を感じてもらえればよいと考えております。

――社内における企業法務の印象は変わりましたか?

伊達 最近では、直接、「法務部に入れてください!」と言ってくれる他部門の方もいらっしゃいます。「今の法務部は面白そう」と映っているのかもしれません。
 そういう意味では、多少なりとも法務の地位も向上してきたのでは、と感じています。
 しかしながら、法務部門は、あくまでもサポート部門であり、法務部門が会社の主体となることはありません。他部門とのコミュニケーションを今以上に良くしていき、どれだけ会社に間接的に貢献できるかが大切だと思っております。

第4回へ続く


文/笠原崇寛
写真/柏崎佑介
編集/八島心平(BIZLAW)



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 戦う法務部長

伊達 裕成

Profile

伊達 裕成 [株式会社カプコン 総務・法務統括 法務部 部長(現:株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長)]

明治大学大学院法学研究科 博士前期課程修了。電機メーカー、商社、外資系企業、TV会社の法務責任者を経て、 株式会社カプコン総務・法務統括法務部部長として活躍。2016年10月より株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長として勤務。




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