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減額請負人

株式会社カプコン 総務・法務統括 法務部 部長(現:株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長) 伊達 裕成

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戦う法務部長 第1回

企業法務に20数年携わり、数多くの修羅場を潜り抜けてきた企業法務のプロフェッショナル中のプロフェッショナル、伊達裕成氏。これまで何社もの企業法務部を渡り歩き、復活させてきたその手腕から、時に“戦う法務部長”と呼ばれることもあった。
伊達氏がこれまで携わった案件の中でも、とっておきのミラクル案件について話を聞いた。自社のミスで取引先から請求された数十億円もの損害賠償額を、なぜ10分の1以下の数億円にまで減らすことができたのか――。(取材日:2014年8月19日)

「戦争」を避けるための
法務部の戦い

――伊達さんは、これまで実に様々な業界の企業で法務部門を担当されています。その法務パーソンとしてのキャリアのなかで、「これは忘れられない」と思えるほど、印象に残ったエピソードはありますか?

伊達 メーカーに勤務していた時のことです。納品した自社の部品に不具合が発生し、取引先から数十億円もの損害賠償請求を求められました。1個100円程度で販売していた部品がモジュール部品として組み込まれれば1万円程度のものになります。つまり、1万個で1億円の損害になります。実際の請求額はその何十倍だったと記憶しております。正直、青ざめました。相手の要求のままに払ったら会社へのダメージは甚大です。会社の利益など飛んでしまいます。しかしながら、請求してきた会社(相手方)との今後の取引を止めてしまえば、それは、会社にとって将来的にかなり大きな影響を受けることになります。
 この難題を解決すべく、直ちに対応しました。

――どのように取引先との交渉に臨んだのでしょうか。

伊達 まず、実際の交渉に入る前に、不具合のある部品を提供した事業部の担当者へ何度となくヒアリングを行いました。取引をする際の注文書、契約書、検収証、その他相手方の会社担当者との遣り取りをしたメール、資料等すべてを確認しました。不具合の状況や取引先との関係など詳細な話についても何度も何度も聞きました。その結果、自社のミスによることが分かりました。
 そのうえで、次のとおり、相手方に対する交渉方針を決めました。
 第一に、相手方は今後も取引を続けていきたい大事なパートナーなので、ぎりぎりまで訴訟することを避け、当事者間での解決策を探る。
 第二に、部品の不具合は、自社のミスが原因であったが、可能な限りの減額交渉をする。
 第三に、代理人を使わず、会社担当者で対応する。
 大枠、この方針で臨むことにしました。

――数十億円もの請求にもかかわらず、なぜ代理人を使わず、会社担当者で対応するという会社の方針になったのでしょうか?

伊達 相手方ともう二度と取引しないということであれば、代理人を使う選択肢もあったかもしれません。
 しかしながら、本件については、自社の落ち度もあったことも分かっていましたし、相手方も自社との関係を断ち切るつもりでやってきているのか、最初の時点では分からなかったため、双方の会社の担当者間で遣り取りすることが、本件においてはベストと判断しました。
 つまり、先に自社側から代理人を立ててしまいますと、当然ながら、相手方も代理人を立てることになりますため、そうなれば、法的な手続きと進んでしまう可能性があります。自社からはその法的な手続きでの解決を希望していないことを暗に示す必要もあったのです。

交渉決裂した時の
デメリットを相手方に認識させる

――減額交渉は成功したのでしょうか?

伊達 成功しました。数十億円をわずか数億円にまで減額できました。数十億円規模の損失をなんとか免れたことになります。この事案においては、たまたま運が良かったのかもしれませんが、このような事案においては、法務担当者は大いに活躍できる場面でもあります。
 この案件には限りませんが、このような問題が発生した場合、法務担当者がやらなければならないのは、トラブルが発生した原因の調査、その他、相手方との契約内容及び取引割合、関連法律等の確認になります。
 相手方が重要な取引相手でないから調査をいい加減にやるという訳ではありませんが、前述したように、相手方との取引を止めてしまった場合の会社の今後における影響は、判断する上ではとても大切になります。
 また、相手方との交渉の前に、自社側にとって都合の良い情報及び悪い情報の両方が収集できればベストです。よく、都合の良い情報だけを集めるよう指示するような人もいますが、交渉においては、如何に相手方より先に自社にとって都合の悪い情報を収集しておくかが、とても大切です。すべてにおいて、自社側が悪いというケースは別として、ほとんどのトラブルは、大体において双方に落ち度はあります。従って、双方の落ち度について相殺するにおいても、事前に自社側の落ち度、つまり悪い情報を把握しておいた方が交渉し易くなるからです。
 また、交渉は常に状況が変化します。こちら側が有利だと思っていても、ある一つの証拠で、一気に形勢が逆転し、不利になってしまうようなことはよくあります。だからこそ、自社にとって都合の悪い情報をどれだけ先に把握するかが大切になるのです。

 とにかく一番やってはいけないことは、自分勝手な考えだけで、交渉を進めてしまうことです。独善的な見解では、状況の変化には全く対応することができないからです。たまたまそれで成功するようなことがあったとしても、別のケースにおいては、大怪我をすることになってしまうのです。常に謙虚な姿勢で取り組むことが重要なのです。

――しかし、なぜ賠償請求額を10分の1にまで減額できたのでしょう? そう簡単に減額交渉を受け入れてくれるとは思えないのですが、うまくいった交渉の秘訣はあるのでしょうか?

伊達 交渉は、相手方にも担当者が当然いる訳です。つまり、相手方担当者の面子を完全に潰してしまっては、纏まるものも纏まらないことになります。つまり、相手方の担当者が、その上司、そして経営層へ説明し易いような内容を、むしろ、こちらから説明してあげることが大切になります。
 今回の事例でいえば、こちら側が納めた部品に不具合があったことは間違いなので、相手方にとってはこちら側に損害を請求すればよいのですが、それで、終わりにしてしまってよいのか、つまり、逆に、もし、今後、部品の調達がこちら側からストップしてしまった場合、その他の第三者からでも同じ品質のものを確保することができるのかを、考えさせることがとても大切です。それが、人の生命にかかわるような部品を最終的に製造するものであればあるほど、代替性はなくなるからです。
 確かに、部品を発注する側の会社においては、リスクを可能な限り最小限にすべく、予め幾つかの会社に分散して部品を納品してもらうようにしている会社も多いと思われます。しかしながら、急に、一つの会社からの納品がストップした場合、他の会社に取引を止める会社分の部品等を供給してもらうにしても、各工場の生産能力の問題があり、そう簡単には代わりの会社で対応することはできないのです。
 さらに、発注した会社も、部品メーカーから納品された部品を組み込んだモジュール部品のような場合であれば、当該モジュール部品を更に組み込むメーカーに期限内に納めなればらなりません。つまり、納期がある訳です。ある程度の纏まった数で、信頼性のおける部品ともなれば、そう簡単にこれまで取引のなかった全く別の会社に発注することは難しいのです。
 従って、発注者側の会社が、不具合のある部品を納品してしまった会社に対して、その1回のミスを持って、直ちに、完全に取引を止めてしまうということは、現実的には非常に困難になります。
 不具合のある部品を納品してしまった会社は、だから安心してよいということにはなりません。納入した部品の不具合の原因を徹底的に調査し、事後、同様なことが起こらないよう会社をあげて取り組み、将来的な体制作りをしっかりと行うことが大切です。そして、相手方の会社に対して、真摯な姿勢で対応し、事後、同様な事故が起こらないような体制づくりを構築していく旨、構築までのスケジュールを示しながら説明、そして理解してもらうことが必要です。
 そして、相手方の理解が得られれば、相手方との関係は継続することになり、相手方もある程度の減額は受け入らざるを得ないということになります。

企業法務の醍醐味

――損害賠償の金額について和解が成立した後、その取引先とはどうなったのでしょうか?

伊達 和解契約書の作成は全て事前に法務の方で対応し、調印日というのを設定しました。そして、当日、両社の社長に出席して頂き、和解契約書に、双方の社長が署名して、握手を交わすというセレモニーを行いました。
 そして、調印式の日に、相手先から新規の注文がありました。自社事業部の館内放送では、「A社様より新規の注文をいただきました!」とのアナウンスが流れると、社内には大きな歓声が上がったと聞きました。
 事業部存亡の危機であった数十億円もの損害賠償請求が回避できただけでなく、新たに仕事まで頂けたのですから、事業部としてもその驚きは大きかったのではないでしょうか。

――それはすごい。

伊達 これは厳しい、勝てそうもないという状況をひっくり返した瞬間は企業法務の醍醐味です。企業法務の使命は、企業が継続的に発展していくための解決策を何度となく提案し、会社一丸となって対応できるようサポートしていくことにあります。
 そして、一番大切なのは、会社一丸となって、取り組めるような体制作りを迅速に構築できるかにあります。結局、法務部門だけで、このような大きな案件を解決することは絶対にできません。他部門とのコミュニケーションが最も大切なのです。問題となった案件の情報は、法務部門にあるのではないからです。問題が発生した部門との連携は勿論、関連する部門から快く情報を出してもらって、一緒になって難題に挑む体制、つまり、よいチームワークを作っていくことこそがとても大切になるのです。チームワークがよくなければ、どんなに優秀な人がいてもよい結果に結びつくようなことはできないのです。
 また、状況は常に変わりますので、変化する状況にすぐに対処できるような柔軟性のあるようなチームがベストです。一度、方針を決めてしまったら、それを一切変えられないような体制であれば、たまたまよい結果になることはあるでしょうが、次の案件ではよい結果を得られないこともあり得ます。それでは、意味がないのです。どんな案件に対しても、会社一丸となり、状況によっては臨機応変に対応方向を変更できるような体制で臨むことが大切なのです。
 法務担当者の中には、最初から法律用語を並べ立て、さっさと終わらせたがるタイプの法務担当者も確かにいますが、それは企業法務の本質的な役割を無視しているとしか思えません。
 相手方と戦うための方法を考えることが仕事ではありません。訴訟にしてしまえばいいとか、裁判で争って勝ち負けを競うとかそんなことではないんです。

 むしろ、問題が発生したことを契機に、更に、相手方の会社と自社との双方にとって更なるよい関係を築けるように導けるようサポートをすることが、企業法務の本質的な役割だと考えております。
 相手方にも納得してもらうような、つまり、双方がウィンウィンの結果が得られるように導くことこそが、本来的な任務だと思っています。そんなことはできないだろうとよく言われますが、最後の最後まで諦めないで、粘り強い対応をすることも、また、企業法務担当者の責務でもあると思っております。逆境をチャンスに変える仕事。こんな素晴らしい仕事ができるので、私は20数年、ずっと企業法務ばかりしているのかもしれません(笑)。

第2回へ続く

文/笠原崇寛
写真/柏崎佑介
編集/八島心平(BIZLAW)




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 戦う法務部長

伊達 裕成

Profile

伊達 裕成 [株式会社カプコン 総務・法務統括 法務部 部長(現:株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長)]

明治大学大学院法学研究科 博士前期課程修了。電機メーカー、商社、外資系企業、TV会社の法務責任者を経て、 株式会社カプコン総務・法務統括法務部部長として活躍。2016年10月より株式会社ドワンゴ事業サポート本部 法務部部長として勤務。




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