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社会の承認を得るための
「未来型コンプライアンス」

インクリメントP株式会社 知的財産法務部長 足羽 教史

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前例なき時代の道標、「未来型コンプライアンス」 第3回

 先端技術をビジネスとして日本が牽引するには、個々の技術の精度以上に、新しいプラットフォームを作る姿勢だと足羽氏は語る。加えて、そのプラットフォームの実現は、法的知識・経験を持つ企業法務パーソンにこそ担えるものであるという。連載最終回、キーワードは「未来型コンプライアンス」。



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――前例がない技術が台頭してきた社会における、法務部のスタンスや働き方はどのようなものとお考えでしょうか?

足羽 今後、「前例がない案件」は例外ではなく、「ほとんどすべて」となることを覚悟しておく必要があります。ただ、それは法務部が法律を離れることを意味するわけではありません。むしろ、現行の法律が成立した背景、背後にある思想、歴史的な経緯等を理解した上で、あるべき新しい法律のイメージを想定しつつ、事業側に最適なシナリオを提示したり、アドバイスしたりする役割が求められるようになるはずです。つまり本当の意味での法律理解の力が試されることになります。

――そのために必要なスキルはどのようなものでしょう?

足羽 スキル以前に、何としても自社のビジネスを勝ちに導く、という決意と意志が大事だと思います。「既存の法律ではどうにもならない」と簡単に諦めるようでは話になりません。

 ただ、だからと言って、無手勝流で、やるだけやって後で考える、というような姿勢では、前に述べたように、生命や身体の安全にかかわるような案件だと、ことによると会社の存続にかかわるようなトラブルを招いてしまうことになりかねません。少なくとも、最悪のラインはどこにあるのかを把握できないようでは話になりません。そういう意味での危険察知能力は不可欠です。

 何か新しい製品を投入したり、サービスを始めようとしたりした時に、該当する法律も見つからず、あるいは既存の法律では違法の恐れがあるような場合でも、そのサービスを市場で多くのユーザーが利用するようなことになれば、将来のある時点では何らかの法律ができたり、ガイドラインが設置されるようなことは必ず起きてきます。その製品やサービスをやめないで、ユーザーにとっても満足できる秩序はどういうものなのか、その場合に適切な法律は何なのか、そのような想像力、将来をデザインする能力も必須になってきます。

 その上で、どんなリスクがあるかわからないが、やるしかないとの判断を経営者が下した場合でも、未来に起きてくるであろう問題を予見して、社会が認める秩序感、社会的な有用な秩序イメージの範囲内に収まるような行動を積み上げていくことができれば、その企業は社会の信頼を得ていくことができるはずだし、「よくわからないけど、その企業がやるのであればおかしなことにはならないだろう」というユーザーの承認を得ることができるはずです。これを私は未来型コンプライアンスと呼んでいます。

 新しいことをやる場合には、この信頼感の獲得は非常に重要です。合法であっても、この企業がやるとなんだか怖い、という印象を持たれてしまうと、必要以上に行動に制約を受けることになりかねません。そういう意味でも、この未来型コンプライアンスは企業にとって非常に重要な要素になっていくことを私は確信しています。

――その役割を担うのがこれからの法務パーソンだと?

足羽 実際の法改正の手続きには時間がかかり、政治的な思惑もぶつかり合うでしょうから、バイアスもかかると考えられます。しかしながら、時代の趨勢を勘案した理想的な秩序感や法律のイメージは、紆余曲折はあっても最終的にはその方向に決着していくことが期待できるだけではなく、社会の良識派の支持を得ることができ、良質なユーザーの信頼を得ることができます。ソーシャルメディアが普及している今日、良質なユーザーによる口コミ発信の力は非常に大きなものがあります。逆に、この未来型コンプライアンスを理解していない会社は、法律を守っているのに、怖がられたり、嫌がられたりすることが多くなってくるはずです。そして、ネガティブな印象もすぐに拡散してしまいます。

 法務部スタッフは、事業部門がリスクを取って早くビジネスを始めるためにこそ、未来型コンプライアンスを常に意識して、ガイドラインを策定したり、事業部門に継続的にアドバイスしたりしていくことが必要で、それを経営レベルで咀嚼して備えておくことが、企業にとって最も「リスク回避的な」行動になるはずです。このような力量ある法務部スタッフは、企業の経営への関与がますます求められるようになり、逆に言えば、企業の経営者は、こうした総合的な法律理解力なくしてはつとまらないような時代が来ると思います。

 企業が未来型コンプライアンスを実行しようとした場合、道は2つあるでしょう。
 ひとつは、経営層が法律と法律ができる背景に至るまで徹底的に学び、政策法務的なビジョンを持って企業を牽引していくケース。
 もうひとつは、既存の法務パーソンが経営的ビジョンを持つケース。あるいは経営に参画していくこと。

 これはあくまで個人的な意見ですが、後者のほうが当面、より実現可能性が高いと考えます。やはり法律を一度は深く掘った人のほうに一日の長があると思います。

 前例のないビジネスにアジャストする社会的枠組み構築のため法律を捉えなおそうとする場合、体系的かつ総合的な理解が必須です。ビジネスの延長から局所限定的に関連業法だけを見るのではなく、立法趣旨を含めた、それこそ憲法まで遡って広い視座から法律を理解することに努めた経験が求められる。

 3Dプリンターで拳銃を製造したり、米国ではドローンを刑務所に飛ばしたりという事件があったように、今後、新技術にかかわる法務は、刑事事件にも目配せが必要になってきます。実際の刑事裁判で何が判断基準となるのか、刑事事件の構成要件や刑罰法規などを知っている人のほうが、いざという時にはもちろん、未来を予見するにあたっても有利な立場にあるのは言うまでもない。こうした知見は、経営層が一から身に付けようとするにはかなりハードルが高いものでしょう。もっとも、企業の法務担当で刑事に詳しい人は実はあまり多くないと思いますが、基礎的なところから法律を勉強した人なら、キャッチアップは早いはずです。
 将来的には、経営者というのは、このような未来型コンプライアンスを仕切っていく能力がある人の別名になっていくに違いないと私は考えています。

 先に述べたように、これからの先端技術ビジネスで重要なのは、個々の技術以上に、新しいビジネスのプラットフォームを構築することです。それは、未来型コンプライアンスを構築していくためにも言えることです。個別の法律にいかに詳しくても、法律を全体として理解できなければ役に立ちません。一つの法律だけではなく、さまざまな法律分野、ビジネス、技術等、総合的に組み合わせていく必要があります。

 実業を行う企業法務パーソンが法律面から新しい問題を掘り下げる自主ネットワークを作れば、そこには当然弁護士は関与したがるでしょう。まさに弁護士にとっての顧客が新しい市場を作ろうとしているように見えるはずです。新しい領域をどんどん開拓していかないと、弁護士過多の時代に取り残されてそのうち誰からも依頼がなくなってしまいかねません。もちろん、企業法務パーソン自身、新しい時代に向けて自己研鑽していかなければ、干上がってしまうことは目に見えているので、そのような自覚がある人が集まってくる場は非常に活性化していくはずです。
 企業法務パーソンと弁護士が一緒に大きな渦を作ることができれば、ビジネスや技術の現場で法律という壁に苦しむ、経営者や、技術者が関心を持って集まってくることも期待できます。そうなれば、メディアや研究者にも関心を持っていただけるようになるはずです。

 一人、一企業でこの全部をやるのは無理ですが、このように場を設定して、多くの人が集まってくるようになれば、それこそ、非常に力のあるプラットフォームになるはずです。企業をバックに持つ企業法務パーソンだからこそ、新しい人とお金の流れを生み出すことができるかもしれない。体系的な法律の知識と、ビジネスのプラットフォームを作ろうとするプロデューサー的視点の2つが、これからの企業法務パーソン、ひいてはこれからの企業経営者に求められるものだと思います。

――足羽さんは現在、先端技術にかかわる法務課題を研究する「最先端法務研究会」を立ち上げようとしておられます。その目的と展開をお聞かせください。

足羽 準備メンバーの中には若干違った考え方を持っておられる人もいらっしゃるかもしれませんが、現段階での私の構想は以下の通りです。

 まず、コアメンバーは企業法務担当で構成して、その目的は急激な技術革新やビジネスの手法が目まぐるしく変わっていく環境でのこれからの企業経営において、より上位の役割を果たせるようになることです。そのために、皆で研鑽できる会としたいと考えています。
 そのためには何より、まず、今何が起きていて、これから何が起きそうなのか、基本的な環境認識をしっかりと共有できるよう、法律関係者だけではなく、技術者や研究者等にお話していただく機会を作っていきたいと考えています。

 ただし、狭義のコアや目的とは別に、法律自体の見直しなどにも関与し、提言や提案などを行っていくべきとの声は、研究会の性質上自然に出てくると考えられます。

 実際、すでにそのような目的で個別の法律分野を研究したいと仰る方も多いため、ゆくゆくはメンバー各自が自分の研究テーマを持っていただき、何らかの「発信」を目標に据えて成果を問えるような研究会にしていければと考えています。

――本日はありがとうございました。


取材、編集/八島心平(BIZLAW)
写真/稲垣正倫(BIZLAW)




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 前例なき時代の道標、「未来型コンプライアンス」

足羽 教史

Profile

足羽 教史 [インクリメントP株式会社 知的財産法務部長]

インクリメント P(株)知的財産法務部部長/ブログ『風観羽』主宰

トヨタ自動車、JX日鉱日石エネルギー(旧三菱石油)を経て現職。海外企画、マーケティング、海外事業等、事業系のキャリアが長い。
尚、ブログでの発言は所属する組織・団体とは関係ない。




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