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何がクライシス・マネジメントの
成否を決めるのか

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危機的な不祥事が発生した場合にどのように対応すればダメージを最小限に抑えられるのか、実務経験の豊富な専門家3人に語っていただいた。


初動で失敗する企業の特徴

築島 最近、企業が不祥事により危機的状況に陥る事例の報道を目にしない日はありません。しかし多くの企業は、クライシス発生への備えについてまだ積極的ではないように感じます。

小杉 これまで危機対応サポートに携わってきた経験から申し上げると、最近の事例では、顧客や取引先、官公庁といったステークホルダーときちんとコミュニケーションがしきれずに失敗することが多いように思います。

山口 そうですね。平時に広告宣伝等で、すべてのステークホルダーに対して誠実であることをアピールしていたような企業が、いざ有事になると、多くのステークホルダーの中でどのように優先順位をつけるべきか的確に判断することができなくなってしまうという事態はよく見られます。

築島 初動で失敗するケースの特徴として、経営トップ層が実際に起こっている危機を過小評価して「震度」を見誤ることが挙げられます。

山口 企業の「中」の人が、危機を危機として認識することは非常に難しいと思います。最近の事例でも、偽装の公表やリコール拡大を経営層に決意させるのは外部の弁護士や社外取締役が多いですよね。

小杉 当社がお手伝いしたケースでも、当初の調査スコープから、予想外の事象が発生し、調査範囲を拡大せざるを得なくなったということがありました。これも、経営陣の認識のズレが浮き彫りになった事例だといえるでしょう。

築島 社内的には、とかく自らの正当性を説き、震度を低くしようとする説明に寄っていくものです。しかし、それを世間が聞いたらどう感じるか。その視点を持てるかどうかが、危機対応における対外的なコミュニケーションや戦略の立て方のカギを握ると思います。

情報コントロールの限界

小杉 平時にはコントロールできているステークホルダーとのやり取りが、コントロールできなくなるのが有事です。特に大企業ほど慢心がありますので、危機対応において、これは大きな問題になり得ます。そのため、法的ポイントを押さえた法務部を巻き込んだ形での的確な対外コミュニケーションをリードしていく専任チームが必要になります。

山口 クライシスにおける対外コミュニケーションにマニュアルはありません。法的に見れば、情報を出すこと自体がリスクですから、そのリスクを負いながらいかに説明責任を果たすかという点は、危機対応の中で最も難しい部分です。

築島 私の経験では、むしろアクティブかつ戦略的に情報発信していくことがクライシス・マネジメントの成功につながるのではないかと感じることも多いのですが、いかがでしょうか。

山口 情報は、早く出せば後で訂正しなければならないリスクが発生しますし、なかなか情報を出さないと、それはそれで非難される。正確性の担保とタイミングの見極めは、どの企業でも悩む問題だと思います。

小杉 そこを正しく見極めるには、刻々と変化する状況の中で、各ステークホルダーが何を考え、何を知っているのかという全体構造を理解しなければなりません。発生した事象だけを何となく積み上げて見ていると、場当たり的な対応しかできなくなってしまいます。

山口 そのためには、全体像を把握する責任者がいることが不可欠ですね。ただ、情報のコントロールには限界があります。いったん不祥事が外部に明らかになると、その後は正規の広報ルート以外からも情報が流れる可能性があるということは覚悟しておかなくてはなりません。

小杉 同感です。実務的にいえば、ある程度までは情報のコントロールに努めるとしても、ある時点からは情報が流れる前提で事態収束に向けてやるべきことを準備し、対応するというモードに切り替えるのが 正解となる場合もあると思います。

平時の情報共有体制がカギ

小杉 クライシス発生直後にサポートに入ると、なかなか情報が出てこず、現状把握に時間がかかるというケースによく遭遇します。これでは、事態を収束させるためのシナリオを作成したり、事業や財務に及ぶ影響を最小化するための有事対応が行えず、すべてが後手に回ってしまいます。

山口 平時から情報共有体制が機能していない企業でよく見られるケースですね。例えば、どのような情報を役員会の議案とし、あるいは議案から外すべきか。取捨選択の基準をきちんと検討、議論できていないと、クライシス・マネジメントができているとは到底いえないでしょう。

築島 情報共有体制を考えるうえでは、平時からネガティブ情報がうまく流れる状況になっているかどうかも重要ですよね。

山口 その点は私もコンプライアンス経営の支援をしていて苦労するポイントです。従業員自身にとって不利益となる情報を上げやすくするためには、内部通報にリニエンシー的な仕組みを取り入れる余地もあるかもしれません。

小杉 ネガティブ情報を共有せずにいること自体がリスクであり、クライシスにつながるのだという意識を従業員に持ってもらう必要がありますね。クライシス・マネジメントを考えるうえで、通報制度の設計は非常に重要だと痛感しています。


注意すべき「行政」の視点

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築島 ステークホルダーの中で特に注意しなくてはならないのが行政です。どのような不祥事であっても、行政を無視して問題を収束させていくことは難しいからです。

山口 行政の視点は弁護士の視点と大きく異なります。危機対応の経験が浅い弁護士は、最終的な司法解決を念頭に、法的責任がなかったと主張する方向で助言しがちですが、行政としては、企業に責任があろうがなかろうが、国民に発生している被害や損失に対して、どのように救済・拡大防止を図るのかと問うてくるわけです。

築島 そうですね。ですから、行政がどのような形で問題を着地させたいと考えているかを素早くキャッチしたうえで、それを自社にとって望ましいシナリオに近づけるにはどうすればよいかを考える必要があります。

小杉 調査委員会の設計を検討するうえでも、それは非常に重要なポイントです。行政側が、身内の保身のための調査であると感じたら、企業に対する姿勢は厳しいものにならざるを得ません。

山口 どのステークホルダーの利益を最優先しなければならないかを考えれば、自ずと第三者委員会を設置するほかないという決断になるのではないでしょうか。しかし、これは一度失敗しないとなかなか分かっていただけないかもしれません。実際には、腹を決めるのは難しいものだと思います。

クライシス・マネジメントが
企業を強くする

山口 ステークホルダー対応において、もう一つ忘れてはならないのが投資家の視点です。投資家は、不祥事を起こした企業が原因分析と再発防止にどう取り組むかを注視しています。原因について言うと、企業はとかく特定の一従業員の個別的な問題だと捉えようとする傾向が見られます。しかし外からは、そのような従業員の行動を許容してしまった組織に構造的な欠陥があったのだろうという見方になるのが普通です。

小杉 そうですね。今ではどの上場企業でも内部統制の整備が進みましたが、それにもかかわらず不祥事が絶えないのは、やはり組織の深いところに問題があるといわざるを得ません。

山口 いろいろな事例を見ていると、企業トップが「不届き者の社員のせいで会社が迷惑を被った」という認識で危機対応にあたっているのではないかと感じる場面に遭遇します。組織の問題として向き合うには、まずは社長自身の意識を変える必要がありますが、外部の者があまり言い過ぎると疎んじられることもあり、もどかしく思っています。

築島 徹底的に組織的要因を分析し、再発防止策を講じることができれば、自浄能力のある企業であることを対外的にアピールできますよね。

山口 戦後日本の企業不祥事を調べてみると、不祥事が起きても自浄能力によって対応できた企業は株主代表訴訟を起こされていません。株主代表訴訟は、損害賠償請求が認められたとしても株主にとって直接的な利益にはつながらないわけですから、それでも訴えるのは、許せないという気持ちがそれだけ強いからという理由にほかなりません。

築島 ある上場企業の社長が、「内部統制やガバナンス整備にお金をかけたところで1円の利益にもならない」と話していました。たしかにそのとおりで、仕組みを作ったからといってその瞬間から売上げがアップするわけではありません。しかし、いったん不祥事が起こってしまえば、レピュテーションの低下、ブランドの毀損、財務諸表の訂正、調査に伴う専門家コストや内部コスト、優秀な従業員の流出など、企業にかかる金銭的・非金銭的な損失は甚大なものになります。

 不祥事を防ぐ仕組みを構築し、これを発信していくことは、株主からの信頼を得ることにもつながりますし、資本コストの低下にも資するといえます。また、万一クライシスが起こってしまった場合においても、これを乗り越え、より強い企業に生まれ変わるためのツールであるという積極的な意義を、多くの方に知っていただきたいですね。


(制作/レクシスネクシス・ジャパン企画制作部)


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Profile

築島 繁(Shigeru Tsukishima)
[デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー 公認会計士]


90年慶應義塾大学商学部卒業。95年公認会計士登録。上場企業の会計事案における特別調査委員等を歴任するほか、危機管理案件にも関与。

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Profile

小杉 徹 (Toru Kosugi)
[デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアヴァイスプレジデント]


01年早稲田大学理工学部卒業。企業経営、企業買収、大型企業統合案件に加え、大型不正・危機対応案件にPMOとして関与。

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Profile

山口 利昭 (Toshiaki Yamaguchi)
[山口利昭法律事務所 弁護士]


85年大阪大学法学部卒業。90年弁護士登録。公認不正検査士( CFE )。著書『ビジネス法務の部屋からみた 会社法改正のグレーゾーン』(レクシスネクシス・ジャパン、2014)、『不正リスク管理・有事対応』(有斐閣、 2014)ほか多数。




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