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雇用を巡る国際的な動向

人材サービス総合研究所 所長 (経営コンサルタント) 水川浩之

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雇用が変わる ~人材派遣とアウトソーシング、外部人材の戦力化~ 第5回

2016年10月、レクシスネクシス・ジャパン(株)から新刊書『雇用が変わる』が刊行されました。この連載では、その導入部となる第1章を全6回に分けてご紹介しています。今回は第5回「雇用を巡る国際的な動向」です。



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 これまで、労働者派遣を中心とした我が国の法規制の変遷や人材サービスの市場について触れてきましたが、これらに少なからず影響を与えているのが国際的な動きです。グローバル化の中にあり、我が国の制度も国際社会に適合していくことが求められています。  雇用慣行の歴史的な背景を尊重しながらも、国際社会の一員として一定の協調も必要であるという観点から、ここでは視点を変え、労働者派遣法だけでなく、「同一労働同一賃金」の今後の方向性を見極めるためにも、国際的な動きについて採り上げていきます。


(1)ILOの民間職業仲介事業所条約の採択

 1999年の我が国の労働者派遣法の抜本的な改正に大きな影響を与えたのが、1997年6月19日のILO(国際労働機関)第85回総会における「民間職業仲介事業所条約」(第181号)の採択でした。

 これは、1933年に有料職業紹介所の原則廃止を定めた「有料職業紹介所条約」(第34号)が、有料職業紹介所が国の補完的な位置付けであり、また期間限定的な位置付けであると1949年に改正された「有料職業紹介所条約」(第96号)を経て、最終的に民間職業仲介事業所の位置付けが大きく転換されたものです。

 この「民間職業仲介事業所条約」が採択されるまで、ILOは加盟各国に有料職業紹介所の禁止を求めていましたが、労働市場が変化する中、民間職業仲介事業所の果たす役割を認識し、これを利用する労働者の保護を図ることを目的として考え方を改めたのです。「民間職業仲介事業所条約」は、2000年5月10日に発効し、最新の条約として効力をもっています。「民間職業仲介事業所条約」では、労働者の保護とともに、民間職業仲介事業所の運営を認めるにあたっての枠組みについても規定しています。また、労働市場政策の策定や実施のための公的資金の利用や管理の最終的な権限は公の機関にあるとしたうえで、公共と民間の職業仲介事業所の協力促進のための条件の策定を求めています。

 この条約では、民間の職業仲介事業所の定義として、次の三つを挙げています。

 (1) 職業紹介事業
 (2) 労働者派遣事業
 (3) その他、求人情報提供などの求職関連事業

 労働者保護策としては、機会均等・均等待遇、労働者の個人情報保護、労働者からの費用徴収の禁止(一定の例外を除く)、団結権・団体交渉権の確保、児童労働の使用禁止、移民労働者の保護、労働者の苦情等の調査などのための機構・手続きの確保などを規定しています。この「民間職業仲介事業所条約」を補足するものとして、「民間職業事業所勧告」(第188号)も同時に採択されています。「民間職業事業所勧告」には、「民間職業仲介事業所条約」の実施やそのための法規制の策定にあたって、できるかぎり三者構成の機関または労使団体を関与させるべきことが含まれており、我が国においても現在まで公益代表、労働者代表、使用者代表のいわゆる公労使の三者構成による審議が原則となっています。

 また、民間職業仲介事業所の非倫理的な行為の防止と排除の措置、民間職業仲介事業所の労働者の個人情報保護、ストライキ中の労働者の代替を不可とする指摘など、労働者保護のために国が講ずべき措置についても挙げられています。
 さらに、国内政策について公共職業安定所と民間職業仲介事業所が協力することを奨励し、情報の共有や職員の訓練などについての具体的な内容も示されています。

 我が国は、1999年7月28日にこれらの条約を批准したことで、民間の労働力需給調整に関する労働市場のあり方について実質的に国際的な枠組みの中に加わりました。これが1999年の労働者派遣法の抜本的な改正に大きな影響を与えることになったのです。


(2)OECDによる我が国への勧告

 OECD(経済協力開発機構)は、2006年の年次報告書「OECD Employment Outlook 2006」で、我が国の労働市場の二極化について是正を求めています。
 二極化の原因として、解雇法制が未整備であること、正規雇用者の解雇が困難であることを指摘したうえで、いわゆる非正規雇用者への企業の依存度が高くなり、結果として所得格差につながっていることを挙げています。

 また、2008年には、特に我が国の若年層の失業や格差拡大を問題視し、「Japan could do more to help young people find stable jobs.(日本はさらに若年層の雇用の安定を支援すべき[筆者訳])」という内容の報告書「Jobs for Youth Japan」を発表しています。この報告書では、低所得、社会保障の欠落、スキルや経験の機会の不足などが指摘されています。
 これらの解決策として、教育と労働市場との連携強化、公共職業訓練の拡充、正規労働者と非正規労働者の実効的な保護の格差縮小と賃金や手当における差別的な慣行への対処、積極的な労働市場政策の強化など踏み込んだ勧告もされています。

 さらに、2012年の「OECD Employment Outlook 2012」では、日本への雇用に関する提言として、次のように整理しています。

【OECD Employment Outlook 2012】(抜粋)
・正規労働者と非正規労働者間の雇用保護の格差を縮小することで労働市場の二極化を是正する。
・非正規労働者への社会保障の適用範囲を拡大することにより、非正規労働者の待遇を改善し、非正規労働者を雇うことによる費用の優位性を削減する。
・非正規労働者の訓練を充実させ、正規雇用への移行の機会を増加させる。
・日本版の職業能力評価制度設立に向けた計画を推進する。
・就業意欲を高めるよう勤労所得税額控除を導入することにより就業給付を強化する。

 そして2015年の「OECD Employment Outlook 2015」では、OECD加盟国と比較した圧倒的な失業率の低さや特に女性に対する雇用政策が奏功した就労率の高さを評価しながらも、失業者の再就職への長期化について懸念を示しています。
 また、我が国の労働者のスキルの水準がOECD加盟国中最も高い反面、それを過小評価していることにも触れ、女性の労働市場への参入とキャリア形成支援についても促しています。
 ほぼ毎年のようにOECDから同様の指摘を受け、特に格差是正、若年層の就労、女性の労働参加については一貫して勧告を受けていることから、ここでも国際社会における我が国の特異性が見え隠れしているといえます。


(3)EU派遣労働指令

 EU(欧州連合)の主要機関である欧州議会は、2008年11月19日に「派遣労働に関する欧州議会及び閣僚理事会の指令(DIRECTIVE 2008/104/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 19 November 2008 on temporary agencywork)」(以下、「EU派遣労働指令」という。)を採択し、派遣労働者の保護や派遣労働者と正規労働者間の均等待遇の原則などによって派遣労働の質を改善することを目的に可決しました。

 EUでは、1980年の「テンポラリー労働の分野におけるEC行動指針」(Guidelines for Community action in the field of temporary work(agency work and contracts for a limited period))」以来、派遣労働は望ましくないものとして制限していましたが、その後の紆余曲折を経ながら30年近くの歳月をかけ、ようやく成立したものです。

 EUの非正規雇用(非典型労働=Atypical Work)に関する法規制には、派遣労働指令以外にも「パートタイム労働指令」(1997)や「有期労働指令」(1999)、「テレワークに関する枠組み協約」(2002年)などがありますが、いずれも均等待遇が原則として据えられています。これは、EUの「男女同一価値労働同一賃金の原則」(The principle of equal pay for male and female workers for equal work or work of equal value)の考え方が根底に流れていることによるものです。

 EUは、1992年の「欧州連合条約(マーストリヒト条約)」と2009年の「欧州連合の機能に関する条約(リスボン条約)」という二つの基本となる条約によって成り立っていますが、「同一価値労働同一賃金の原則」については、後者の「欧州連合の機能に関する条約」の157条に記載されています。

 「同一価値労働同一賃金の原則」は、1957年に「欧州経済共同体設立条約(ローマ条約)」が調印された当時の「同一労働に対して男女労働者の同一賃金原則が適用されることを確保するものとする男女同一労働同一賃金原則」119条に遡ることができます。この時点では、「男女同一労働同一賃金の原則」となっていましたが、その後、1975年の「男女同一賃金指令」において、新たに、「男女同一価値労働同一賃金原則」が定められました。

 当初の考え方として、「同一価値労働同一賃金」は、男女平等のために掲げられたものというのがその起源だったということになります。
 さらに1997年の「欧州共同体設立条約(アムステルダム条約)」の改正で、119条が141条となり、条約の中に「同一価値労働同一賃金の原則」が盛り込まれました。それが連綿と現在の「欧州連合の機能に関する条約(リスボン条約)」157条へと引き継がれているのです。
 この「欧州連合の機能に関する条約」の157条は、次のように規定しています。

【欧州連合の機能に関する条約157条】[筆者訳]
(1)加盟国は、同一の労働、又は同一価値の労働において、男女同一賃金の原則を適用することを保証しなければならない。
(2)この条約において、「賃金」とは、基本給、最低賃金、給与、その他の現金、現物支給について、直接的、間接的に労働者が雇用者から受けるもののことをいう。性別に基づく差別のない同一賃金とは、以下をいう。
 (a)同一の業務に支払われる給与は、同一の基準で算出されなければならない。
 (b)時給は、同一の業務に対して同一でなければならない。
(3)欧州議会と理事会は、通常の立法手続に則った経済社会評議会との協議のもと、同一労働同一賃金、又は同一価値労働同一賃金の原則を含み、雇用と職業に関する機会均等と男女平等の原則の適用を確保するための措置を講じなければならない。
(4)男女の職業生活の完全な平等を確保する観点から、均等待遇の原則は、性差別の排除や防止を容易なものとするため、加盟各国における特例の措置や適合を妨げない。

 このような考え方のもとに発せられた「EU派遣労働指令」は、主に次のような具体的な内容を示しています。

 まず、前提として、派遣労働の利用の禁止または制限については、派遣労働者の保護、安全衛生、労働市場の機能の確保、濫用防止に関する一般的な考え方に限るとしています。
 そのうえで、労働時間、時間外労働、休憩時間、休養期間、夜間勤務、有給休暇、休日、公休、および賃金などの労働条件についての均等待遇を保障するとともに、出産、育児に伴う母親の保護や児童、若年者の保護について規定し、性別、人種、民族、宗教、信条、障害、年齢、性的指向などの差別も排除するとしています。
 さらに、社員食堂、保育施設、交通サービスなどの福利厚生施設や共有設備の利用について正規労働者と同等の扱いを受けることや派遣先企業における正規就業機会の情報提供についても定めています。

 これらに鑑みれば、現在、我が国で進められている労働者派遣法改正や同一労働同一賃金の議論の方向性は、人材サービスに関する事業規制強化を除けば、大なり小なりヨーロッパ諸国の方向性に合致していることになります。


 最終回となる第6回では、各国の労働者派遣法制を解説していきます。




 編集/八島心平(BIZLAW)


The-Upheaval-of-Employment

雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメント
The Upheaval of Employment

水川 浩之(著)
定価:¥2,700+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069598
発売日:   2016/10/15




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  雇用が変わる ~人材派遣とアウトソーシング、外部人材の戦力化~




水川浩之

Profile

水川浩之人材サービス総合研究所 所長 (経営コンサルタント)

1982年、オンキヨー株式会社に入社。国内、海外の営業、マーケティングに従事、ドイツ現地法人に出向し当時の西ヨーロッパのマーケティング責任者を務める。
1992年、KDDI株式会社に入社。経営企画部門や事業企画部門を歴任する他、日本における事務系BPOの先駆けとしてサービス部門における業務プロセス改革のプロジェクトマネジメントに携わる。
2003年、アデコ株式会社に入社。社長室長、ビジネスプロセス統制部長、広報宣伝部長、社長付企画推進部長などを歴任。在職中、日本人材派遣協会運営支援部会、人材派遣健康保険組合監事、立命館アジア太平洋大学の非常勤講師も兼務。
「労働者派遣法改正」「今後の労働法制」「企業の人事戦略」など講演多数。
経営について稲盛和夫氏を師と仰ぐ。座右の銘は「敬天愛人」。




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