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労働者派遣法の制定前夜

人材サービス総合研究所 所長 (経営コンサルタント) 水川浩之

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レクシスネクシス・ジャパン(株)が提供する法令・判例・行政総合ソリューション「Lexis AsONE」で好評連載中のオリジナルコンテンツ「Business Issues」から『雇用が変わる ~人材派遣とアウトソーシング、外部人材の戦力化~』をご紹介します。(平成27年12月17日 Lexis AsONE上で公開)



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1 労働者派遣法の源流を遡る

 人材サービス市場を俯瞰すると、多くの場合、労働者派遣法の改正に伴ってその推移に大きな変化を見ることができます。法政大学大原社会問題研究所の「日本労働年鑑第55集1985年版」を紐解いてみると、労働者派遣法の制定が俎上に乗ったのが1978年のこと。請負事業と労働者供給事業との区分の曖昧さを背景に、当時の行政管理庁が労働省に対して、「民営職業紹介事業等の指導監督に関する行政監察結果に基づく勧告」をしたところから始まります。この勧告は、労働者供給事業に対する規制の再検討の必要性を指摘し、次のように述べています。

【民営職業紹介事業等の指導監督に関する行政監察結果に基づく勧告】(抜粋)

 経営の効率化方策の一環として事務処理、情報処理等の特定の業務を積極的に外部に委託する傾向がみられ、このような需要にともなって、企業等に労働者を派遣して請負業務を処理する事業(「業務処理請負業」という)」が増加している。
 これらの事業は、

 (1) 産業界の多様な需要にこたえていること、
 (2) 労働者とりわけ厳しい雇用情勢下にある中高年齢者等にたいしても就労の機会を提供していること、

 など、その果たしている役割は「無視できないものとなっている」が、事業の運営実態からみて、「労働者供給事業」に類似した面を有しているがため、「業務処理請負事業に係る需要の動向、当該事業の運営形態、労働者の労働条件等の実態を十分に把握の上、業務処理請負事業に対する指導・規制の在り方について検討する」必要があり、基本的に、「労働者供給事業に対する規制の在り方についても職安法の立法趣旨、内外の動向等を踏まえて検討する必要がある。

 この勧告を受けた当時の労働省は、1978年に「労働力需給の現状と問題点を検討するとともに、今後の経済活動や労働市場の動向に対処し、的確な労働力需給の調整を図るための有効なシステムとその法制の在り方について、長期的展望に立った広い視野から検討し、方向づけを行うこと」を目的に、労働力需給システム研究会(会長:高梨昌 元信州大学名誉教授)を設置しました。

 1980年に、労働力需給システム研究会によってまとめられた「今後の労働力需給システムのあり方についての提言」で、「相手方の需要に応じて、自己の雇用する労働者を派遣し、その相手方に使用させる」ことを目的とする「労働者派遣事業」の創設が提言されたことが、今日の労働者派遣法の源流となっています。

 筆者は、労働者派遣法の生みの親と言われる故高梨先生の生前にお目にかかったことがありますが、非常に謹厳実直で気骨のある方でした。労働者派遣事業の制度化に伴う事業者の要件として、「経営の基礎が確実であり、かつ、雇用管理能力が十分ある者であって、徳性に問題のない者に許可する」とあり、当初より、人材サービス事業者にとって「徳」が必要であることを強く唱えていたお人柄がうかがえます。

 「今後の労働力需給システムのあり方についての提言」では、労働者派遣事業が専門分化した職業の労働力需給の迅速な結合という有効な機能であるとして、以下のように一定の役割を認めています。

(1) 労働力需要供給双方のニーズに応えている。
(2) 中高年齢者、家庭婦人など就職の困難な者に雇用機会を提供し、雇用創出に役立っている。
(3) 一時的労働力需要をつなぐことにより、派遣労働者に継続した雇用を確保している。

 一方、問題点として以下についても指摘をしたうえで、「問題点を除去し、派遣労働者の労働条件、雇用環境の向上を図る観点から一定の公的規制を加えたうえで労働者派遣事業を労働力需要システムの一つとして制度的に確立していく必要がある」と提言しています。

(1) 派遣労働者の雇用が不安定になりやすい。
(2) 使用者としての責任が不明確になりがちである。
(3) 社会、労働保険の適用がすすまないおそれもある。

 労働力需給システム研究会からの提言を受けた労働省は、ただちに労働者派遣事業調査会(会長:石川吉右衛門元東京大学名誉教授)を発足させ、素案として「労働者派遣事業の制度化問題についての主な論点と今後の問題」を示し議論を開始しました。

【労働者派遣事業の制度化問題についての主な論点と今後の問題】(抜粋)

 (1) 労働者派遣事業の制度化については労働者供給事業の原則禁止を維持する。単に、規制の強化のみではそこで働く労働者の雇用の安定や保護を図ることが困難となっている分野については、労働者の雇用管理について一定のルールを設定する。

 (2) 制度化を検討する場合、ビルメンテナンス業、警備業、情報サービス業、事務処理サービス業に代表される分野に限定する。その場合、請負事業との区分をより明確化し、労働者供給事業にたいする指導監督を強化する。

 (3) 事業者が直接労働者を雇い入れ、終身的な雇用管理をおこなうといったわが国の雇用慣行に基本的な影響を与えないよう、労働者派遣事業の対象分野を限定し、派遣期限(同一労働者を同一企業に派遣する期間)や派遣理由に制限を加えるなどをおこなう必要がある。

 (4) 労働者派遣事業と他の労働力需給システムとの関係について、労働者派遣事業は「国の職業紹介を強化することを基本としつつ、それのみでは対処し得ない分野を補完する」ものとして位置付ける。労働組合による労働者供給事業は現行どおりとする。

 (5) 労働者派遣事業は許可制度とする。

 (6) 派遣労働者について派遣元事業主、派遣先事業主双方における雇用管理体制を整備する(労働条件を文書で明示するなど)。

 (7) 労働者保護法規の適用関係を明確化する。

 (8) 社会保険の適用を促進する(社会保険加入を派遣元事業主に義務づけるなど)。

 (9) 雇用の安定を図るため、できるかぎり常用労働者の雇い入れ促進を基本とする。

 (10) 指導監督の強化。

 この調査会では、当初、合意を得られないまま約2年半の中断を経たのち、1984年にようやく報告書がまとめられました。

 この報告書で、労働者派遣事業の制度の枠組みとして、労働者供給事業との区別が示され、これが労働者派遣の最も基本的な考え方として現在まで踏襲されています。つまり、労働者の供給元と労働者の間に雇用関係のないものを労働者供給事業、派遣元事業者と派遣労働者の間に雇用関係があるものを労働者派遣事業として、労働者派遣事業が労働者供給事業から切り出されたのです。そのうえで、派遣元事業者が派遣労働者の雇用者として包括的な使用者責任を負う一方、派遣労働者に指揮命令権のある派遣先事業者は、派遣契約の範囲で使用者として業務遂行上の責任を負うなどの制度の概念が示されました。




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水川浩之

Profile

水川浩之人材サービス総合研究所 所長 (経営コンサルタント)

1982年、オンキヨー株式会社に入社。国内、海外の営業、マーケティングに従事、ドイツ現地法人に出向し当時の西ヨーロッパのマーケティング責任者を務める。
1992年、KDDI株式会社に入社。経営企画部門や事業企画部門を歴任する他、日本における事務系BPOの先駆けとしてサービス部門における業務プロセス改革のプロジェクトマネジメントに携わる。
2003年、アデコ株式会社に入社。社長室長、ビジネスプロセス統制部長、広報宣伝部長、社長付企画推進部長などを歴任。在職中、日本人材派遣協会運営支援部会、人材派遣健康保険組合監事、立命館アジア太平洋大学の非常勤講師も兼務。
「労働者派遣法改正」「今後の労働法制」「企業の人事戦略」など講演多数。
経営について稲盛和夫氏を師と仰ぐ。座右の銘は「敬天愛人」。




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