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法律家が
Brexitの渦の中で見るもの

多田 慎(弁護士)、 高橋 由美子(英国ソリシター)

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© iStockphoto.com/fotojog

第4回 Brexitに揺れるEU法の権威

Business Law Journal2016年7月号62頁に「英国がEUから離脱した場合の実務への影響」を執筆した多田慎弁護士と高橋由美子英国ソリシターが、タイムリーな情報を発信する本コーナー。
第4回は、EU脱退に伴ってEU法の「権威」はどうなるのか、そしてますます見通しが不透明になってきたBrexitの手続はどこへ向かうのか、高橋ソリシターが解説します。(Business Law Journal編集部)


英国高等法院による判決

11月3日、朝のチームミーティング中、アソシエートの1人がひっきりなしに携帯をチェックしていた。高等法院から判決が出るのをまだかまだかと待ち構えていたのだ。

審理は10月13日、17日および18日の3日間にわたって行われており、高等法院が回答すべき質問は極めてシンプルであった。

「英国政府は女王(国王)特権(royal prerogative)を行使して、EU離脱の意思の通告を目的とするEU条約(Treaty on European Union)(以下「TEU」という)50条を発動することができるかどうか」

判決はお昼前に出た。出た判決は(それが正しいかどうかは別として)クリアすぎるほどクリアであった。高等法院は、英国政府には50条を発動する権限はないとしたのだ。


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高等法院による判決([2016] EWHC 2768 (Admin))の1枚目。


この判決を受け、政府は即刻、最高裁への上訴を決めた。今後の見通しであるが、最高裁が12月5日から4日間、審理を行い、高等法院の判決をひっくり返さない限り、TEU50条の発動には議会の承認が必要となる。そして、そのためには法律(act of Parliament)を定める必要がある、というのが大方の見方である。

余談になるが、判決が出た翌日、一部の新聞は担当の裁判官3人を「国民の敵(enemies of the people)」と呼んだ。英国独立党党首代行ナイジェル・ファラージ氏は「2019年までに英国がEUを脱退していなければ、(政治の第一線に)また戻ってきますよ」と発言した。「I’ll be back.」だなんて、ターミネーターじゃあるまいし。

そもそも今回の高等法院の判決は、国民投票の結果の信憑性を判断したり、Brexitをなかったことにしたりするものでも何でもない。一部のマスコミの報道はお門違いも甚だしいと言わざるを得ない。


ブリュッセルからウエストミンスターへ

実は、高等法院での審理が始まる約2週間前の10月2日~5日、メイ首相は、保守党の党年次大会において、TEU50条に基づく脱退通告を2017年3月末までに行うと発表していた。


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The Independentより)保守党の党年次大会で演説するメイ首相。


メイ首相のその演説は、人々に勇気と希望を与えるキラキラ言葉に溢れていた。

「一般市民、労働者階級の家庭のため(the interests of ordinary, working-class families)」
「グローバルブリテン(Global Britain)」
「ヨーロッパの隣人(European neighbours)」
「グローバル貿易(global trade)」
「我々の言語こそ世界の言語(our language is the language of the world)」

など。グローバルだの、世界だのという言葉を駆使するのは日本の政治家の十八番かと思っていたが、メイ首相も「グローバル」という言葉がお好きなようだ。連発回数6回。

メイ首相のBrexitのビジョンは気持ちがいいほど明快ではある。国内では、ごく少数の恵まれた富裕層のためではなく一般市民のための環境作りに努め、国外では、世界を舞台として活躍するワールドプレーヤーの英国を応援する。そして、グローバルな舞台で戦えるだけの素養が英国人には既に十分あることを強調した。

上記の最高裁での判決次第になってしまうが、肝心なEU離脱の時期についてメイ首相は、もう1つのキーポイントとなる、英国のEU脱退に伴う国内の法的措置についても演説の中で述べている。具体的には、来期の議会の開会式(2017年5月予定)での女王演説(Queen’s Speech)に、「欧州共同体法廃止法案(現在のところGreat Repeal Billと呼ばれている)」を盛り込む考えであることを明らかにしたのだ。

同法案はその名のとおり「1972年欧州共同体法(European Communities Act 1972)(以下「ECA」という)」を廃止することを目的とするが、その効果についてメイ首相は以下のように述べている(抄訳)。

「英国においてEU法に直接効力を持たせる法令である1972年法(ECA)は、我々が正式にEUから脱退する日から適用されなくなる。その効果は明白だ。我々の法律はブリュッセルではなくウエストミンスターで作られるようになる。裁判官による法律の解釈はルクセンブルグではなく英国内の裁判所で行われることになる。英国におけるEU法の権威は終焉するのだ」

メイ首相がここで言う「EU法の権威(the authority of EU law)」とは、EU法の直接適用およびEU法の優位性のことも指すものと考える。以下に、EU法と英国の国内法の関係について両側面から検討する。


EU法の法源と立法手続

一般的にEU法の法源は、一次法、二次法、判例の3つに分類される。

一次法
・EU設立に関する諸条約、同設立条約を追加、修正または改正する条約、新規加盟国の加盟条約および同設立条約に付属する議定書、協定など。
・国内であれば憲法に相当する。
・現在のEU法の主要な一次法は上記のTEUと「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)」(以下「TFEU」という)。

二次法
・EUのさまざまな目標、目的を達成するために、一次法の法的根拠に基づき制定された法令(TFEU288条)。
・規則、指令、決定、勧告および意見の5種類がある。


法的拘束力を有する

規則
Regulation

法的拘束力を有し、加盟国に直接適用される。
この「直接適用」をTFEU288条では「directly applicable」と表現しているが、これには2つの解釈があるとされている。
・規則が私人に直接、権利を発生させ、私人はその権利を国内の裁判所において行使することができるという解釈。
・規則は国内法の一部を成し、国内法に整備される必要なしに適用されるという解釈。
いずれの解釈においても、規則は国内法から独立して効力を持ち、加盟国が規則の直接適用を妨げることがあってはならない。

指令
Directive

政策目標および実施時期については法的拘束力を持つが、どのような国内法措置を採択するかは加盟国に委ねられる。

決定
Decision

適用対象が特定の加盟国、事業体、私人に限定され、対象となる加盟国、事業体、私人に法的拘束力を持つ。

法的拘束力を持たない
(soft law)

勧告
Recommendation

欧州委員会が特定の加盟国、事業体、私人に対し一定の行為や処置を期待することを表明したもので、政治的プレッシャーをかける働きがあるとされる。

意見
Opinion

特定の分野について欧州が意思を表明したものである。

判例
・欧州司法裁判所の判例のことを指す。


それではこれらのEU法がどのように作られるのか。EU法の立法手続には複数あり、案件により適用される立法手続が異なる。

最も標準的な手続は「通常立法手続(ordinary legislative procedure)」と呼ばれるものである(TFEU294条)。この通常立法手続によると、まず欧州委員会(European Commission)から欧州議会(European Parliament)と欧州連合理事会(EU Council)に法案が提出される。提出された法案はファーストリーディングおよびセコンドリーディングと呼ばれるプロセスにおいて欧州議会と欧州連合理事会によって審議され、最終的に採択される。

メイ首相が演説の中で「我々の法律はブリュッセルではなくウエストミンスターで作られるようになる」と述べたのは、EU法の立法手続がブリュッセルの欧州委員会による法案提出から開始することを指し、英国のEU離脱後は立法手続の場が英国議会の所在するロンドンのウエストミンスターのみになることを意味している。




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