MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

米国でついに成立!
営業秘密の連邦民事保護法

元外資系企業法務部長 浅井 敏雄

Fotolia_118155024_S

© beeboys – Fotolia

 営業秘密をめぐっては、日本では、2012年に新日本製鉄(現・新日鐵住金)が韓国ポスコを提訴した事件や2016年にエディオンが上新電機を提訴した事件など大型の事件があり、また、EUでも、2016年5月、営業秘密の統一的な民事保護法の制定をEU加盟国に義務付ける指令が出されました。こうした状況下で、EUと時を同じくして、米国でも、長らく待たれていた連邦レベルの民事保護法が成立しました。
 本稿では、浅井敏雄氏(元外資系企業・日本企業法務部長)に、この米国の新法制について解説していただきます。



はじめに

 従来、米国では、営業秘密(trade secret)を保護する主な法律として、刑事については連邦経済スパイ法(Economic Espionage Act of 1996)、民事については統一トレードシークレット法(Uniform Trade Secrets Act:UTSA)をベースとした各州のTrade Secrets Act(州TSA)があった。しかし、連邦レベルの民事保護法はなく、また、各州TSA間および各州判例間で不統一があったため、長らく連邦の民事保護法制定が待たれていた。

 このような状況の中、2016年5月ついに、連邦の民事保護法(Defend Trade Secrets Act of 2016:DTSA)が成立し施行され、連邦法に基づく民事上の保護を求めて連邦裁判所に提訴できることとなった。この点、米国では、「近年における知的財産権に関する最も重要な進展である」(フォーブスWeb版)等と、非常に重要なこととして受け止められている。DTSAには、日本企業の米国子会社はもちろん日本企業自体も直ちに対応を要する事項も規定されている。本稿では、新たに対応が求められる事項およびDTSAの概要について、UTSAとの比較にも触れながら解説する。


日本企業を含め直ちに対応を要する事項 ――公益通報の免責告知

 DTSAは、違法行為の通報(「公益通報」)に際しての政府や裁判所に対する営業秘密の開示ついては、営業秘密に関する連邦・州法上の刑事・民事責任から免責されると規定する(UTSAにはこのような規定はない)。
 そして、企業は、この免責を、従業員または個人のコンサルタント・外注業者(「従業員等」)との間の、秘密情報に関する定めを含むすべての合意(雇用契約、入社時・退職時誓約書、コンサルタント契約、取引契約、秘密保持契約等)であって、今後締結または改定するものすべてに記載し告知しなければならない。

 したがって、日本企業の米国子会社はもちろん、日本企業自体も米国の個人のコンサルタントまたは個人の外注業者との契約において、上記免責の告知(「免責告知」)をしなければならない。もし、免責告知をしなかった場合、企業は、従業員等が営業秘密を不正に取得・開示または使用(以下、総称して「不正使用」)しても、懲罰的損害賠償や弁護士費用の賠償を請求できない。
 企業として、DTSAのこの要求に対する最も確実な対応は、従業員等との契約をすべてリストアップし、その全部に、DTSAの免責条項全文を引用するか添付することである。


DTSAの概要

(1) DTSAの適用範囲
 DTSAは、各州間または外国企業との間の取引の対象となる(または取引の対象とする予定の)製品・サービス(「製品等」)に関する営業秘密に適用される。したがって、日本企業と米国企業間の取引対象の製品等に関する営業秘密について不正使用があった場合は、連邦法であるDTSAに基づき連邦裁判所に訴えを提起することができる。ここで、営業秘密は取引の対象とする「予定の」製品等に関するものであってもよいから、社内でのみ使用されている営業秘密でも、開発途中の製品等に関する営業秘密でも対象となり得る。
 重要な営業秘密のほとんどは、上記の適用要件を満たすであろうから、今後は、従来のUTSAに代わり、DTSAとそれに基づく連邦裁判所の判例が営業秘密保護の第一義的法源となると予想される。


(2) DTSAと各州TSAとの関係 ――今後の訴訟戦略
 DTSAは、既存の営業秘密保護法に取って代わるものでも、これらを修正するものでもない。したがって、ある事件がDTSA、各州TSA両方の適用要件を満たす場合、営業秘密の所有者は、訴えの根拠法(DTSA、各州TSAの両方または一方)と提訴先裁判所(連邦裁判所または州裁判所)について選択肢を有する。
 これは、同時に、営業秘密の所有者が、それら選択肢のメリットとデメリットの分析・検討に弁護士費用等、追加の経済的負担を負うことも意味する。実際、アメリカ知的財産法協会(American Intellectual Property Law Association:AIPLA)の2015年の報告によれば、営業秘密に関する訴訟費用は、既に100万ドル ~ 1,000万ドルの請求額に対し100万ドル近くのコストを要しているところ、DTSAの制定によりさらにコストが増加する可能性がある。
 DTSAの内容はUTSAと共通する部分が多いが、それでもなお両者間および各州TSA間では相違もあるから、原告または被告にとり、ある法律に基づいた場合には勝訴し、他の法律に基づいた場合には敗訴するという状況が生じ得る。したがって、原告は、DTSAと州TSA両方、または、その訴訟戦略によってはあえてDTSAまたは州TSAいずれかのみに基づく訴えを選択することになる。これに加え、原告は、連邦裁判所と州裁判所のいずれが自己にとり有利かを判断し選択しなければならない。


(3) DTSAの適用要件

① 営業秘密(trade secret)の定義
 秘密性保持のための合理的措置、秘密性、経済的価値という3要件を満たす情報である。UTSAと文言上若干の差異はあるが、実質的な違いはほぼないと思われる。

② 権利・訴えの主体
 営業秘密の所有者(owner)であり、営業秘密を所有するか、または、それを使用する正当権原もしくはライセンスを有する者を意味する。カリフォルニアの州TSAのように、営業秘密の旧所有者も含まれるかについては、DTSA成立後間もないので判例はまだない。

③ 不正使用(misappropriation)の定義
 DTSA上の定義は複雑であるが、詳細を省きその大要をいえば、次のとおりである。
  (a) 不正手段(improper means)による取得
  (b) 不正手段介在を知りまたは知り得た状況下での取得
  (c) 不正取得者による開示・使用
  (d) 不正手段介在を知りまたは知り得た者による無断開示・使用。
 ここで「不正手段」には、リバースエンジニアリングは含まれない。
 この定義はUTSAと実質的に同じである。


(4) 保護の内容――事前通告なしの差押え(Ex Parte Seizure)
 営業秘密が不正使用された場合またはそのおそれがある場合、一定要件下で、申立人(原告)は被申立人(被告)に対する事前通告・審問を経ることなく、営業秘密を含む資料その他営業秘密の拡散防止に必要な財産の差押えを求めることができる。DTSA立法過程で最も議論を呼んだもので、UTSAには同様の制度はない。差押えの要件は以下のとおりである。

① 差押命令を下すための主な要件
 (a) 申立人が不正使用を証明できる見込みがあること
 (b) 差押対象財産とその所在場所が特定されていること
 (c) 差止め等では不十分なこと
 (d) 急迫かつ回復不能の損害が予想されること
 (e) 申立却下による申立人の損害が被申立人の損害を上回ること
 (f) 事前告知した場合、差押対象財産が隠匿されるおそれがあること

② 差押命令の主な要件
 (a) 必要最小限の差押えとすること
 (b) 申立人に適切な担保を提供させること
 (c) 執行官の権限の範囲を明示すること
 (d) 差押命令後7日以内に審問(hearing)を行うこと


(5) 保護の内容――不正使用の差止め(Injunction)
 営業秘密の不正使用またはそのおそれに対し、営業秘密の使用禁止その他営業秘密の不正使用を防止するために必要な差止めを求めることができる。UTSAと同様の規定である。 ただし、被申立人(元従業員等)が申立人(旧雇用主等)の競争相手に転職すること自体を禁止することはできない。また、転職先で申立人の営業秘密を使用することを禁止するためには、あくまでその不正使用のおそれが立証されなければならず、単に被申立人が申立人の営業秘密を知っているというだけでは足りない。さらに、カリフォルニア州のように、州法が、転職や適法な職務遂行への制限を禁止している場合、これに反してはならない。例えば、申立人の営業秘密の使用、開示等の禁止のほかに、申立人の顧客に対する営業行為自体を禁止することはできない。UTSAにはこのような規定はない。


(6) 保護の内容――損害賠償の請求
 営業秘密の不正使用に起因する現実の損失と不当利得を請求できる。または、これらを客観的に計算することが困難な場合等は、これらに代えて、不正使用に対し合理的に想定される使用料を請求できる。UTSAと実質的に同じである。


(7) 保護の内容――懲罰的損害賠償(Exemplary Damages)の請求
 故意および悪意による不正使用の場合、上記(6)の損害賠償額の2倍以内の懲罰的損害賠償を求めることができる。UTSAと実質的に同じである。


(8) 保護の内容――弁護士費用の請求
 故意および悪意による不正使用の場合、合理的範囲内の弁護士費用を請求できる。UTSAと実質的に同じである。米国では弁護士費用が多額になることが多いから、原告にとって意味のある規定である。


(9) 出訴期限
 営業秘密の不正使用を発見しまたは合理的注意により発見し得た日後3年以内である。UTSAと実質的に同じである。

以上

Profile

浅井 敏雄 [元外資系企業法務部長]

1978年東北大学法学部卒業。1998年弁理士試験合格。2007年特定侵害訴訟代理業務試験合格。企業にて一貫して法務部門を担当し、外資系企業や日本企業において法務部長を歴任。著作:「技術ライセンスと法①」国際商事法務vol.44No.7(2016)ほか。




ページトップ