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「佳き環境法」の実現に向けて

上智大学法科大学院長 北村 喜宣

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Author’s Voice – 『環境法政策の発想 自社の環境対応に効く100の分析視角』

2015年7月27日、『環境法政策の発想 自社の環境対応に効く100の分析視角』が弊社から刊行されました。本書では、環境法の第一人者である上智大学法科大学院長 北村喜宣先生による100の厳選エッセイを、見開き完結で展開しています。企業がどのように環境規制へ対応すべきか、その実務上の重要視点を全12のテーマで解説します。
今回のAuthor’s Voiceでは、著者の北村先生ご自身に、本書の執筆背景や読みどころを語っていただきました。


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環境法政策の発想 自社の環境対応に効く100の分析視角
Idea of the Environmental Laws policy;100 analysis visual angle to work for company’s environmental correspondence

上智大学法科大学院長 北村 喜宣

出版社 レクシスネクシス・ジャパン(2015/7/27)
ISBN-13:9784908069253



沈思黙考 vs. 軽佻浮薄

 研究者には、いろいろなタイプの人がいる。沈思黙考型は、まさにひとつのことをじっくりと時間をかけて考え抜き、論文を書くにしても彫琢に彫琢を重ね、その結果、重厚な思索のあとが文面に現れる。
 私は、これとは真逆のタイプであり、軽佻浮薄型といってもいい。何事かを思いついたら簡単なリサーチをしてメモのようなエッセイにしてしまう。もう20年ほど続いている習慣である。幸いにも、『自治実務セミナー』(第一法規(以前は、良書普及会))と『産業と環境』(産業と環境(以前は、オートメレビュー、通産資料調査会))が掲載を引き受けてくださった。そのほかに掲載されたものをあわせると、450本ほどになった。


企業環境法の視点

 そのうちのかなりの部分は、『自治力の躍動』(公職研、2015年)をはじめとする7作の「自治力シリーズ」に編集して出版している。これは、自治体行政職員を念頭においた企画であった。
 そうであるために、企画趣旨とはちょっと違った内容のものは、収録されずに残されていた。そこで、「自治力シリーズ」に収録したものも含めて、企業環境法という視点から改めて見直して、一冊にしようと考えた。


本書の全体構成

 企業環境法とは、この数年、私が留意している研究視角である。規制を受ける側、法律がアプローチしようとしている側の視点で法制度を観察することにより、それをよりよい方向に改革するヒントが得られると考えている。そうした視点で100本を選び、一応の体系らしきものに則して振り分けた。
 まず、全体を「総論」と「各論」とした。「総論」は、「環境法の学習にあたって」「環境基本法制と環境法政策の基本的考え方」「環境法規制の仕組み」「環境法の執行」「環境訴訟・環境紛争処理」から構成されている。「各論」は、「環境アセスメント法制」「水質・大気保全法制」「土壌汚染対策法制」「廃棄物処理法制」「開発・景観法制」「墓地衛生法制」「地球環境保護法制」から構成されている。これは、私が執筆した法科大学院用のテキスト『環境法〔第3版〕』(弘文堂、2015年)にならったものである。


企業人読者を想定しての加筆・修正

 企業の環境法コンプライアンスの現場では、法令は所与とされているだろうし、行政のいうことに逆らってみても仕方ないという意識もあるだろう。企業向けの環境法の解説書は、このような現場意識を前提にしてか、法律所管官庁である環境省の代弁者かスポークスマンのような姿勢でいるように感じる。たしかに「正確に伝える」ことが重要であるから、そうした執筆姿勢は理解できる。
 しかし、環境法を研究対象とする者としては、それでは社会的責任を果たしたことにはならない。私は、環境法学の任務は「より佳き環境法」の実現に向けた学問的営為にあると考えている。「佳き環境法」の条件は、透明性、開放性、答責性、応答性、実効性、効率性、比例制、未然防止性、公平性である。100本のエッセイを収録するにあたっては、これらの観点から見直し、内容の最新化はもちろんのこと、相当の加筆・修正を行った。


100のエッセイの背景

 100のエッセイのいくつかを簡単に紹介しよう。若干のコメントも追加した。
 廃棄物処理法のもとでの産業廃棄物処理業許可は、一定要件が充足されれば義務的に取り消される(14条の3の2)。処理業者は、要件に該当しないようにビクビクしながら仕事をしているのが実情である。以前は裁量的取消であったのを2003年改正で義務的としたのである。しかし、これは、取り消す必要がない場合にも適用されるかぎりにおいて、憲法違反である。環境省は、義務的としたことの法政策的誤りを認めて、速やかに裁量的取消にするよう法改正をすべきである。「もう少し様子を見てから」というような無責任な姿勢は強く批判されるべきであろう。
 景観法のもとでの景観計画区域で一定カテゴリーかつ一定規模以上の開発行為をする際には、行政への届出が義務づけられている(16条)。ところが、多くの行政現場では、法律届出の前に条例で事前協議を義務づけ、それなりの時間をかけて開発計画の内容を審査し、場合によっては行政指導を通じて修正をさせている。しかし、本来これは、届出後の勧告によってなされるべきものである。現在の事前協議は、実質的には、法律の先取りとなっており、意味のない二重行政である。こうした違法な措置は改められるべきである。事前協議を存置させたいのであれば、これに法律手続とは異なる役割を与えるべきである。

 地球温暖化対策法のもとでは、事業者は特段の法的義務を課されていないが、自治体の地球温暖化対策条例によって、たとえば、多量排出事業者は、地球温暖化対策計画書の作成と提出が求められている場合がある。地球温暖化は、自治体域を超えた現象であり、自治体ごとに対応をする合理性はないようにみえる。また、自治体によっては、提出された計画の内容を理解して的確な助言をする能力がない場合がある。これは意味のない義務づけであり、違法である。企業への義務づけは、「何となく」という理由でされるべきものではない。


今後の企業環境法研究の展望

 私の企業環境法研究の拠点は、上智大学法科大学院の環境法政策プログラム(Sophia Environmental Law and Policy Program, SELAPP)である。上智大学法学部・法科大学院には、環境法政策を専門のひとつとするスタッフが多く在籍し、この分野に関心を持つ学生も多い。SELAPPの活動状況は、ウェブサイトで紹介している。
 SELAPPでは、2015年度から、ソフィア・エコロジー・ロー・セミナー(Sophia Ecology Law Seminar, SELS)を開催している。春学期は、「産業廃棄物法実務の最前線」という全体テーマのもとで7回の講演+討論を実施した(有料制)。毎回、排出事業者、処理業者、環境コンサルタント、弁護士、行政書士、上智大学生が多数参加し、熱心に議論をした。こうした場での議論は、現場実務を知らない研究者にはきわめて貴重な経験である。将来の研究において、法の実施を企業人の眼でみることを可能にしてくれる。秋学期には、「CSRと環境法を考える連続セミナー」を実施予定である(無料制)。ネットワークがさらに拡がることを期待している。ご関心のある読者は、下記、上智大学法科大学院ウェブサイトの情報コーナーをごらんいただき、参加の申込をしていただければ幸いである。


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 現在は、法科大学院長をしていて時間がとれないけれども、2016年3月に任期が終了したあとは、企業が環境法をどのように受け止めてどのように対応しているのかの実証研究をしてみたいと考えている。法律や判決が企業の活動にどのような影響を与えたのか、企業により対応に違いがみられるとすればそれは何が原因かなど、追求したいテーマは多くある。そして、調査の過程で気がついた事項は、エッセイにして発表してみよう。それなりの数が蓄積されれば、そこから100本を選び出し、本書の続編を出版できるようにしたい。10年後くらいになるだろうか。今から楽しみである。


撮影/市川貴浩




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北村 喜宣

Profile

北村 喜宣 [上智大学法科大学院長]

上智大学大学院法学研究科(法科大学院)教授、上智大学法科大学院長。司法試験考査委員(環境法)。行政法学、環境法学、政策法務論専攻。主著に『環境法〔第2版〕』(弘文堂、2013年3月)『現代環境法の諸相〔改訂版〕』(放送大学教育振興会、2013年3月))『自治体環境行政法〔第6版〕』(第一法規、2012年10月))等多数。

【北村喜宣ホームページ】
http://pweb.sophia.ac.jp/kitamu-y/index.html




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