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もう数字が苦手な法律屋では
いられない

明治学院大学法科大学院教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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Author’s Voice – 『ファイナンシャル ビジネス法務入門』

2015年1月26日に『ファイナンシャル ビジネス法務入門』が弊社から刊行されました。本書は法務部として様々なプロジェクトに携わった著者の視点から、コーポレートファイナンスのなかでも企業の実務で活用できる項目に絞り、かつその法的な問題点を解説したもの。著者の河村先生に、本書執筆の背景やその読みどころを語っていただきました。

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ファイナンシャル ビジネス法務入門 これからの法律屋は決算書が読めないと仕事になりません
Legal Professionals Need to Develop Financial Understanding for Success at Work!

河村 寛治  定価:¥3,200+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン(2015/2/2)
ISBN-13:  978-4-908069-10-9

今も昔もビジネスの現場は
“数字”アレルギー

――新刊ではサブタイトルで「これからの法律屋は決算書を読めないと仕事になりません」と銘打っています。法律家が財務・会計の知識を得る必要性が増してきたということでしょうか?

河村 増してきたというよりは、最近に限らず、財務・会計の知識、特に企業の運転資金や投資資金を確保する“資金調達”の知識は、以前から企業活動の根幹を成すものであり、もちろん必要なものでした。しかし、財務部や経理部などの専門部署任せになりがちな分野ですし、以前は資金を調達する際は、極端な言い方をすれば「金融機関のおっしゃるとおり」になることが多かった。さらに「財務・会計の知識」が必要だといってしまうと、法務パーソンの多くは数字アレルギーなのか、逃げ出したい顔をするんですよね。私は以前商社の法務部に在籍していましたし、今も上場会社の社外役員をやっているので、過去も現在も、法務パーソンにおけるそうした数字アレルギーが相変わらずなことを実感しています。

 必要な内容なのに、苦手意識を持つ人が多いのは、コーポレートファイナンスについての書籍はたくさん出ているにもかかわらず、入門者にとっては範囲が広すぎたり、内容が専門的すぎたりして実務に結び付けづらいからではないかと考えています。そこで、企業法務に携わる方はもちろん、経営者や営業部に所属する方などが資金を必要とする企業の視点からその要点だけを読めるような本を作りたかったのです。これを一冊読めば、企業の資金の流れと、押さえておくべきポイントがひととおり分かるような構成にしています。


――コーポレートファイナンスを学ぶうえで企業目線からの解説がないと困る、という着眼点は商社法務部勤務時代のご経験によるものでしょうか。

河村 商社という業種や前職の社風もあって、プロジェクトの案件審査や交渉現場に法務部員が関わることが多かったので、いわゆる財務・会計の“数字”に接する機会が多くありました。その際は現場に、より深く関わることでなんとか知識を身に付けていったのですが、いかんせん参照する資料が自分にフィットしていないうえに覚えることが膨大なので苦労しました。
 実は私もご多分に漏れず「数字が苦手な法律屋」。高校時代までは数学が得意だったので、深く考えずに入社したら、サッパリ分からなくて愕然としました。数学の「数字」と帳簿上の「数字」はまったく違うと感じてショックでしたね。もう後は、現場で揉まれて……といった具合です。

 本書でも簡単に書いたのですが、昔はそれでも本で得た知識を現場で試して、そろばんで計算して、日常の業務の積み重ねで知識を身に付けて、というような比較的時間に余裕のある知識習得が可能な時代でした。しかし、最近はコンピュータやネットワークの発達により、短期間で正確な結果を出すことが求められています。一冊で、企業で必要な知識に絞った“数字”の要点をスピーディーに掴むニーズはより高くなっているなと感じます。

“数字”を理解することは
プロジェクトの共通言語を理解すること

――法務部員がプロジェクトの“現場”で数字に関わるのは、どんな場合なのでしょうか。

河村 現場で法務部員に求められるのは、財務・会計上の数字を解説することではありません。そこで議論されている内容や相手からの質問を正確に理解して、法律の専門家としての立場からリスクを分析して適切に答えることです。「財務・会計の数字が分かる」ことは基礎的な共通言語を理解していることと同じだと考えていただければよいと思います。

 例えば、私が経験した中で印象的なものの一つに、アメリカの映画会社ワーナー・ブラザーズ社と出版社タイム社の合併の後、出資をしたプロジェクトがあります。

 1990年代当時、私が所属していた伊藤忠商事は参画していた通信衛星を活用するため、配信コンテンツを必要としていました。配信コンテンツとして当時最も魅力のあったのは映画です。どこの映画会社と提携をするか検討していた時期に、ちょうど持ち上がったのがアメリカのメディアの老舗でした。2社は合併当初から借入金比率が高く株価の上昇を見込めないという状況でした。そこで、コンテンツの権利が欲しい伊藤忠と借入金を減らしたいタイム・ワーナー社のニーズは合致しました。
 最終的には東芝も出資に参画し、伊藤忠と10億ドル(当時のレートで1300億円位)を半分ずつ出し合うことになったのですが、それでも各社約650億円です。会社としては、手元にはない規模の出資になりますので、日本の大手金融機関から融資を受けました。この借り入れの交渉もタイム・ワーナー社との交渉と同様、難物でした。
 タイム・ワーナー社への出資プロジェクトには「アメリカへの出資」「パートナーシップ契約」等々、銀行へ説明しなければいけない点が数多くありました。社内におけるプロジェクトの採算性の説明と同様、出資によるリターンをどう回収していくかを長期的な視点でまとめあげ、説明することが求められます。もちろん、各部門の担当者がバラバラに自分の専門分野だけを話したところで銀行は理解してくれません。プロジェクトの担当者としては、「プロジェクトのビジネススキーム全体を的確に理解すること」「各自の専門分野を活かしてまとまりのある交渉を行うチームワーク」「銀行からの質問に明確に答えていく分析力や瞬発力」のすべてが必要でした。

 当初は、このプロジェクトの担当者は、初期の頃は経営トップも含めて10人以下。財務や法務から各1人、営業部から3人程度、後は経営陣という大変コンパクトなチームで組成されていました。細かな箇所を交渉し積み上げていく財務や法務の担当者が、お互いの分野についてある程度の知識を身に付けていることは、言うまでもなく必須のことでした。事前に勉強する暇などありません。初期の頃は極秘プロジェクトでしたので、直属の上司にもこの案件を担当していることを報告することができず、時間を確保することを含め、結構苦労したことを覚えています。
 当時は来る日も来る日もプロジェクトスキームを検討したり、交渉の基本線を確認することに明け暮れていました。当時の価格で数百万クラスの、投資銀行の最新式のコンピュータにIRR(内部利益率)などの条件を何パターンもインプットして計算し、そのうえで利益が出るケースを「良い」「やや悪い」「悪い」「さらに悪くなったら……」と算出してもらいつつ、計算の繰り返しでした。最終的にはそのコンピュータは酷使しすぎたのか壊れてしまいました。

 投資先との交渉でも苦労しました。タイム・ワーナー社はアメリカの企業だったこと、およびパートナーシップを組成したため、税金問題対策のためアメリカの有名なタックスローヤーを起用しました。税金に関する細かなアドバイスを受けその内容を契約書に落とし込み、そのうえで交渉に臨むということの繰り返しでした。
 今振り返ると、まさに総力戦ですね。各人が各人の専門分野を活用して準備をして、自身の専門分野を含め、全体の交渉に臨みました、実際に、契約の際に財務についての質問があっても、ある程度は私がその場で答えざるをえませんでした。相手方は私が知識をもっている前提で交渉していますし、私もプロジェクトチームのメンバーの一員なので、「知らない」「分からない」では話になりません。
 こんな状態が2年程度続いた結果、無事融資も得られ、タイム・ワーナー社への出資を無事行うことができました。

 このように、大なり小なり、法務担当者がプロジェクトのスキーム構成に関わったり、そのプロジェクトの契約全般をレビューしたりすることは多くあると思います。その際にプロジェクトのメンバーや交渉相手が提示する“数字”が分からなければ話にならない、ということです。その“数字”も、もちろんこちらの確認すべきポイントなんですから。


――あまりに壮大なお話すぎて、「結局は商社や一部の企業の法務担当者だけ」が必要な知識と思ってしまいそうです。

河村 金額が大きいだけで、中身はほかの企業でも同様だと思いますよ。上記のプロジェクトでも私が担当したのはシンプルに言うと「法的に問題ないか」「契約書は適切か」という法務部員が求められている業務です。しかし、プロジェクトに加わる限り、法務職だといえども、そのプロジェクトについて専門家としての知見が求められるということです。逆に、営業や財務の担当者であっても財務・会計や法的問題を大枠で理解することは必要だと思っています。

ビジネスは壁を破ってこそ
発展するもの

――2015年4月に開講される明治学院大学大学院の新研究科「法と経営学研究科」でも本書を使って授業をされると伺いました。

河村 この新研究科も本書と同様のゴール、つまり経営学と法学を融合させ、相互の視点から必要な知識を駆使することで社会に出て即戦力となれる人材を育成することを目的にしています。私は「企業金融研究」という授業で本書を使って企業の資金調達を解説する授業を担当することになっています。

 本研究科の目玉である「ビジネス総論」にも参加予定です。この講義は法学部と経営学部の教員が共同で授業を担当し、法学と経営学の両側面からコーポレート・ガバナンス、ファイナンス、ヒューマン・リソーシズ、プロダクション&サプライ、マーケティング、ガバメントについて解説するほかにはない試みです。これまでもビジネススクール等で“経営学専攻の何コマかが法律系科目の授業”といった形で各学問の融合が図られてきましたが、これでは学生はまったく別々に教えられたことを、自身の頭の中で融合させねばならず、混乱を生みかねません。この状態を解消し、学生が経営と法をバラバラに学ばないように“使える法”や“使える経営学”に焦点を絞って学習してもらおうという狙いがあります。

 また、この研究科は明治学院大学法科大学院の教育メソッドが活用されるのも特徴です。明治学院大学では法科大学院における教育実践を通じて、これまで研究者の養成に重きを置いていた授業の方式から実務家の養成を目指すものに発展させました。ソクラティック・メソッドや実務を意識した問題解決方法など、そのため試みられてきた授業のノウハウをデータベース上で整理・蓄積していますので、その経験や方法論を活用していく予定です。


――今後は法律や財務・会計の専門家というより、あらゆる知識に通じたゼネラリストが実務の場では必要とされているのでしょうか。

河村 実務の現場からのこのような要望はもちろんあります。それに加え、「ビジネス」そのものについて考えたときに、様々な立場から物事を考えるのは、本来当たり前なことなのではと思います。例えば、会社を設立したばかりのベンチャー企業の経営者がいるとします。通常であれば、その経営者の頭の中は自身の会社の資金繰りのことでいっぱいなはずです。社長が営業も行うような会社なら、ある程度はビジネスの決まり、つまり法律も把握しておかねば取引先の獲得も危ういでしょう。社員が少なければ、その下で働く、財務・法務の仕事を担当するスタッフも専門的な知識だけでなくビジネスにも精通していなければとても仕事は回りません。常に周囲の業務について、分野に関係なく注意を払うことが求められます。このように、本来誰しも、ビジネスに関わる基礎的な認識や知識は必要なはずなのです。

 立ち返って考えたときに、分野の壁を作ってきたのは、これまでビジネスの現場にいた自分たちでもあるのかな、とも思っています。自分たちが分かる範囲に閉じこもっていれば安心できますし、専門分野を突き詰めれば達成感が得られますが、そこに発展は望めません。「ビジネス」とは本来、複数の分野の壁を崩していくものです。企業の資金調達という側面ではありますが、ぜひ本書がその一歩を踏み出すきっかけになってほしいですね。


写真/市川貴浩
取材・編集/亀田早希(編集部)



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河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法科大学院教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月から明治学院大学法学部教授に就任予定。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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